私の師匠は沖田総司です【上】
龍馬さんがいる部屋を出た後も裏方の仕事は続きました。

宴会後の部屋の片付け、食器洗い、あらゆる雑務をこなしていきます。

そしてあらかたの仕事が終わり、自室に戻ろうと廊下を歩いていると

「天宮さん」

と、呼ばれました。

辺りをキョロキョロと見渡していると、入り口から組長が駆け寄ってくる姿が見えます。

どうして組長が角屋にいるんですか!?

確か組長はあまり島原に行きたがらない人のはずなのに!

「あのっ、組長。どうして?」

「よかった、やっと天宮さんに会えた」

今の状況に理解できなくてワタワタとしている私とは違い、組長は子供っぽい無邪気な笑みを浮かべました。

そして懐に手を入れると

「はい、これを渡したかったんだ」

と言って、私の手に何かを置きました。

これは

「ハマグリ、ですか?」

手のひらサイズのハマグリでした。上下二枚の貝は紐で硬く閉じられています。

そして少し重量がありますね。

「それ使って」

使って?

「食べろの間違いじゃないですか?」

ハマグリは食べ物です。食べ物を使うとか変じゃないですか?

そしたら組長は顔を歪めて笑い始めました。
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