私の師匠は沖田総司です【上】
「では、天宮はそっちから。俺はこっちから」

「はい」

斎藤さんは逆の方から床の雑巾がけをしていく。

雑巾がけは普段使わない筋肉を使うらしいからいいトレーニングになるかもしれない。

道場の雑巾がけを朝の稽古にいれるのもいいかも。

道場も綺麗になって自分も鍛えられる。うん、前向きに検討しよう。

しばらくお互いに会話もないまま雑巾がけをしていると、雑巾同士がゴツンと接触した。

前を向くと斎藤さんの顔がすぐ近くにあり、目があった。

「っ……」

すると突然、斎藤さんが仰けぞるように私から離れる。

あからさまに避けられると、心にグサッとくるものがありますね。

斎藤さんが拭いた範囲を見ると、私より広い。

少し悔しいです。

「終わったか?」

「ええ、終わりました」

「そうか」

再びやってくる沈黙。

斎藤さんとの会話では、この沈黙が来るから少し苦手意識を持ってしまう。

「……」

「……」

「……」

「……」

たぶんこれは、互いに相手から話し掛けられるのを待ってるパターンですね。

「あの」「天宮」

運悪く言葉が被りました。何でしょう、この息の合わなさ。いや、合ってるというべきか?

「……」

「……」

ほら、また気まずい沈黙がきちゃいましたよ。
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