私の師匠は沖田総司です【上】
「ウチのお気に入りなんよ。ありがとな」
「いえ、気に入ってくれてよかったです」
「……さらに女に見えるな」
ボソッと龍馬さんが呟いたら、岡田さんが不自然なぐらい爽やかな笑顔で龍馬さんを見ました。
「龍馬、何か言った?」
「別に」
岡田さんの声音から微かに棘を感じますね……。
でも、龍馬さんは無視してツンとそっぽを向いています。
「そろそろ行くぞ」
「そうやな」
「はい」
私たちは底冷えのする風が吹く中、島原を抜けて町に出ました。泥棒のように気配を消しながら真っ暗な路地を走り抜ける。
そして大きな通りに出ようとしたら、一番前を走っていた岡田さんが手で私たちを制止しました。
「どうした」
声を押し殺しながら龍馬さんが言うと、岡田さんは家の影から少しだけ顔を出してすぐに引込めました。
私も真似をして少しだけ覗くと、提灯を持った数人の人影が見えました。
その人たちはヒソヒソと話し合っています。
「追っ手ですか?」
「おそらくな。ウチと同じ臭いがする。それにしても人が集まりすぎとるのが気がかりや。
……もしかしたらウチらが今日、角屋を出て長州藩邸に向かうっちゅう情報が漏れてたのかもな」
「誰が情報を漏らしたのでしょうか」
「さあな。あらかた角屋の芸妓の誰かが金で雇われたんやろ」