私の師匠は沖田総司です【上】
「むぎゅ――!」

藤堂さんに唇を引っ張られてアヒルのようになっていると、斎藤さんが藤堂さんの肩に手を置いた。

「それまでにしろ。天宮が涙目だろ」

「斎藤君とめないでくれィ!コイツには躾が必要でさァ!」

「それ以上天宮に怒りをぶつけるのなら俺にぶつけろ。おまえの怒りが治まるまで稽古で相手してやる」

「斎藤さん……」

どうしよう、斎藤さんも仏様に見えます。私の身代りになってくれるとは、なんて良い人なんだろう。

「だが、まぁ」

おや?斎藤さんの表情が変わりました。

その表情を例えるなら、悪者が何か悪いことを企んでいるような顔です。

「平助の怒りが治まっても、俺の気も済むまで相手をしてもらうがな?」

「ひぃぃっ!!」

斎藤さんの表情と言葉に顔を一気に青ざめさせた藤堂さんが、私の背後に隠れました。

ちょっと、私を盾にしないでくれませんか?

私だって今の斎藤さんが怖いですから。

「天宮から離れろ。俺が相手だ」

「じょっ、冗談言わないでくだせェ!!斎藤君の気が済むまでなんて俺の身体が持ちませんぜ!」

藤堂さん、耳元で叫ばないでください。鼓膜が破れます。

「天宮、平助を渡せ」

「どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてください」

「やめてくだせェ!天宮、俺とおめェの仲だろィ!?」

一体どんな仲ですか?

私は貴方から頭を握り潰されそうになり、口を引っ張られたんですよ。

こんなことをされて一体どんな仲だと?友達ですか?冗談言わないでください。

友達じゃありませんよ。むしろ嫌いな人と認識されてもおかしくないです。
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