私の師匠は沖田総司です【上】
気合を入れるために頬を手で挟む様に叩いていると女将さんが部屋に戻ってきました。
その手には黒い留袖があります。
「蒼蝶ちゃんも着替えるで」
「私も着替えるんですか?」
「あたりまえやん。明里の隣に立つんやから綺麗にせんとな」
女将さんに手伝ってもらいながら留袖に着替える。
そして髪も結ってもらい薄く化粧もしました。
「蒼蝶ちゃん、よう似合ってるで」
「そうでしょうか……」
女将さんが用意してくださった留袖は私には大人っぽい気がします。
私のようなチビには不釣り合いですよ……。
「あの~、準備できましたか?」
戸の外から組長の声がしました。
女将さんが返事をして戸を開けると黒の紋付き羽織袴を着た組長の姿がありました。
さすが組長。よく似合っています。
組長は中に部屋に入ると明里さんにお祝いの挨拶をしました。
「天宮さん、今日はよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
私達は互いに軽くお辞儀をしました。
実は媒酌人夫人と対になる媒酌人は組長なのです。
本来は近藤さんが行う役目ですが、私が山南さんにお願いをして媒酌人を組長にしていただきました。
組長が媒酌人をする事によって、山南さんの介錯人と言う辛い思いをした師匠が少しでも喜んでくれたらいいなと思っての行動です。