私の師匠は沖田総司です【上】
両親の言葉に、思わずグッと言葉を詰まらせる。

私が独り言を言っている時は師匠と話している時だ。

師匠の姿は私以外には見えない。だから両親からしてみれば、私は独り言を呟いているように見えるのだろう。

本当は両親に師匠の存在を教えてあげたい。

でも、大人が幽霊なんて信じないから、教えることができない。

「それは……試合をしている相手を想像しながら戦ってるだけだよ。言葉に出した方が、リアルな感じがするからね」

「そうなの?お母さん、剣道なんて分からないから。でも、蒼蝶がそう言うならそうなんでしょうね」

「ああ、お父さんも剣道はよく分からないからな」

両親が剣道を全く知らなくて、本当によかったと思う。

私はこれ以上、両親に朝稽古のことを聞かれないように、急いで朝食を食べた。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

「気を付けて行くんだぞ」

「うん」

黒いローファーを履き家から出る。

ゆっくりとしたペースで歩いていると、後ろから師匠の声がしました。

『今日は僕も学校に行くよ』

師匠が風船のようにフワフワ浮きながら、私の隣に来ました。

「学校に来るのは良いですけど、何をするんですか?」

『今日から体育が剣道なんでしょ?蒼蝶の試合を見るために行くんだよ』

なるほど。弟子の実力を見るためですか。

師匠がいるなら気が抜けないな。

体育、頑張ろう。
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