涙を流したのは。
*涙を流したのは*
初めて見たあいつは
愛想のない、可愛くないやつだと思った。
でも二度目に見たあいつは、泣いていた。
.....誰にも涙を見せないように。
そんなあいつを俺は、誰よりも可愛いと思った。
__その涙の理由なんて知らずに。
興味本意というものか俺はあいつに近づいた。
それから、何度も話し掛けたり、ご飯を誘ったりした。
はじめはすごく警戒してたあいつ。
だけどそのうち、あいつは俺に心を許したのか、
だんだんと仲が良くなっていった。
そしていつの日か付き合うことになった。
俺はある時、あの日みた涙の理由を聞いた。
するとあいつは静かに言った。
「......前の彼と別れた時のことかな...?」
俺はその時、なぜだか苛立ちが生まれた。
「....ふーん...」
それでも俺は興味なさげにそう言った。
__あの日見た、あいつの涙は
もちろん俺じゃない、誰かを想って流した涙。
なぜだか、俺はあいつの涙をもう一度見たくなった。
俺は、おかしな事だとわかっていても
どうしても、他の誰かを想った涙じゃなくて、
俺を想って流す涙を見たくなった。
それから俺はわざと他の女といたりした。
でもあいつはまったく涙を流さない。
それどころか、文句を言うこともなかった。
だから俺はあいつの近くであいつじゃない他の女と
手を繋いだり、キスをしたりした。
それでもあいつは何も言ってはこなかった。
俺はもうやけになって、あいつじゃない他の女を
抱くようになった。
そして俺は言った。
「...俺、さっき他の女とヤってきた。」
すると、あいつは溜め息を吐き、静かに言った。
「.....そう...」
もう俺は、言葉がでてこなかった。
あいつは、涙を流すほど俺のことを好きではない。
ということなのだろうか。
それから俺とあいつの時間は無くなっていった。
__そんなある時、俺は見たくもないものを見た。
それは、あいつと男がホテルからでてくる所を。
俺は考えるより先に体が動いていた。
俺はあいつといた男を殴った。
それに小さな悲鳴をあげたあいつの腕をとり、
俺は無理やりあいつを俺の家へと連れてきた。
あいつが抵抗しても俺の力に敵うはずがなかった。
そして、俺はあいつをベッドへと押し倒した。
「.....さっきの...なんだよっ...」
「.............」
「....誰だって聞いてんだよっ!」
「...誰だっていいでしょ...」
「.......は....?」
「....あなたが人のこと言えるの?」
あいつはそう言って俺を押し返した。
そして、上体を起こし、二人ベッドの上に
向かい合うように座っている状態。
無言が続き、時計の針の音だけが部屋に響く。
「.....もう別れよう....」
そう言ったのはあいつだった。
「....無理.. .」
俺はそれしか言えなかった。
「...私ね、前の彼が浮気して別れたの...すごく悲しかった。....たくさん泣いた。...でもね、思ったの。ぁあなんで私、あんな人のために泣いてるんだろうって...
それからあなたに出会って、あなたを好きになった。
....この人ならきっと大丈夫だって思った。」
........でも、あなたは浮気した。
そう言って目を伏せたあいつ。
「...あなたのこと本当に好きだったよ...」
「....俺だって....俺、お前と絶対に別れねぇよ....」
そう言って俺はあいつの肩を掴み、
別れないと何度も言い続けた。
それでもあいつは静かに顔を左右に振った。
「....もう...終わりにしよう…」
「......終わりになんかしたくねぇ...」
「........バイバイ.....」
そう言ってあいつは俺の手から離れていった。
残ったのは、微かに残るあいつの香りとぬくもり。
俺のベッドに染みている涙の滴だった。
あいつは最後の最後で泣いたのだろうか?
そんなことを思って、俺は乾いた笑いを溢した。
___違うか。歪む視界でわかる。
これは俺の涙だろう。
*end*