コーヒーを一杯
カフェ





  * カフェ *





季節は、秋。
表通りの銀杏並木では、黄色い葉が降り積もり、歩く人たちにかさかさと話し声を聞かせ、木枯らしに自らを舞わせている。

とあるカフェでは、そんな秋の気配も僅かながらで、店の前に植えられた春のチューリップや夏のひまわりが生き生きと咲き乱れ、冬の椿が誇らしげに咲いていた。
そうして、秋のコスモスがさわりと吹いた風に揺られた時、一人の女の子が息を切らしその店の前で立ち止まった。

「あれ? こんなところに喫茶店なんてあったっけ?」

可愛らしく小首をかしげた制服姿の彼女は、若干の古風さを醸し出している落ち着いた店構えに躊躇いを見せる。
走ってきたから喉が渇いてはいたけれど、学生である自分が入るにはちょっと敷居が高そうだと思ったからだ。

しかし、開いている出窓から見えたリネンのカーテンが、ふわりと柔らかに舞うのをみていたらいつの間にか木目のドアノブに手が伸びていた。

握ったドアノブにはイチゴの蔓に似た葉のモチーフがついていて、不意に目を奪われる。
それから、四季折々の花が軽やかに咲き乱れる店の前を、何の不思議さも感じずに眺めてから店内に踏み込んだ。

おずおずと中に入り込めば、とてもいいコーヒーの香りが店中を満たしていた。


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