コーヒーを一杯
いつもよりも高いヒールに足を縺れさせながら、あの場所へと走って向かった。
息を切らせ、信号の赤ももどかしく、彼が待っているあの場所へと心がはやる。
やっとたどり着くと、道路の向こう側にある街灯の下で、キョロキョロと辺りを伺う先生が視界に入った。
「先生っ!」
慣れないヒールも新調したワンピのことも気にせず息を切らせて駆け寄ると、彼は大好きな笑顔を私にくれた。
「来てくれないかと思ったよ」
ほっとしたように、けれどとても嬉しそうに彼が言うから、それはこっちのセリフだよ。なんて、あの頃のようにタメ口をきいたら笑われた。
「店、無くなってたんだな。驚いたよ。ティラミス、美味かったんだけどなぁ」
懐かしむように、そして残念そうに言うから私は教えてあげた。
「ステキなカフェがあるの。今日のケーキは、ティラミスだって言ってた。コーヒーが美味しいから、きっとティラミスも絶対に美味しいよ。そこへ行ってみようよ」
時子さんの笑みが脳裏に浮かぶ。
きっと快く迎えてくれるはず。
「その前に」
言って彼が私の手を取った。
「メリークリスマス。気に入ってもらえるといいけど」
小さな小箱を手渡されて、自信なさげに笑う彼の顔を見る。
少しはにかんだ笑顔は、クシャリと笑った顔と同じくらいに素敵だ。
大好きすぎる彼の笑顔に笑顔を返し、あの日できなかった彼へと抱きついた。
メリークリスマス。
大好きだよ、先生。