コーヒーを一杯
今日子が小学校の高学年になった頃には、既に中学受験にむけて日々の生活が回っていた。
週五日の塾通いは当たり前で、週末の習い事のほかに、夜には家庭教師にも来てもらっていた。
それほど重要ではない小学校での授業の時には、早退をさせてでも塾の方に力を入れたりもしていた。
「いやあ、今日子ちゃんは理解力もあって成績の伸びもいいですし。僕も鼻が高いですよ」
東大に通っている男子学生の家庭教師は、一緒に夕食を共にしながら今日子のことをとても褒めてくれる。
おかげで私の方は鼻高々だった。
当の今日子は、黙々とご飯を口にするだけで、表情一つ変えはしなかったけれど。
そんな風に小学校生活を一生懸命に塾と習い事で費やした今日子は、見事中学受験に成功した。
誇らしげな有名私立中学の制服に身を包んだ娘を、更に誇らしげに見守る母親の私。
頑張ってきた甲斐があるというもの。
入学写真に写る今日子は、まだ着慣れない制服に身を包み少し不機嫌な顔をしている。
「今日子ってば、せっかく有名私立の制服を着られるようになったのに、何で笑ってないんだろ」
リビングに写真を飾りながら、その表情に私は首をかしげた。