コーヒーを一杯


「ねぇ。今日子」

リビングのドアのそばに立ったまま声をかけてみたけれど、やっぱり返事がない。

聞こえていないの?

「今日子」

さっきよりも少しだけ大きな声で呼びかけてみた。
だけど、やっぱり返事がない。

なによ。
何で無視してるのよ。
そんなにお母さんのことが嫌なの?
お母さんとなんて話もしたくないってこと?

大体、家の手伝いもしないで、毎日毎日ゴロゴロしないでよ。
せっかく作ったご飯だって、ほとんど箸もつけてくれないし。

成績が落ちてるんだから、机に向かって勉強くらいしなさいよ。
せっかく私立の中学に受かったのに、これじゃあ私の苦労が水の泡じゃないのよっ。

「今日子っ」

気がつけば、ふつふつと湧き上がってきた怒りにとても大きな声で叫んでいた。
肩を怒らせ叫んだ私を、ソファに寝転がっていた今日子が起き上がり睨みつけてくる。

「なによっ。うるさいな!! テレビの音が聞こえないでしょっ!!」

母親の呼びかけをそんな風に切り捨てて、娘は怒った顔を一瞬だけこちらへ向けたあとは、テレビのボリュームを上げてまた背を向けてしまった。


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