たんぽぽぽ。
時計は既に四時前を指し、部活をする生徒の声がグラウンドで聞こえる。
彼はいつもと同じ様に、唯一の部活動である帰宅を始めた。
この学年に部員が二人しかいない部活の、である。
それの名を、帰宅部と言った。

部員は青年、つまり宇田叶衣と峯岡清蘭(みねおかせいらん)、通称ピヨ子と二人だけだ。
他の人間はなんだかの部活に所属している。結構なことである。

どこの部員だかが走り回っているグラウンドの端を通り抜けて、校門をくぐった。
やはり、今日も二人で。

「っていうか、お前今日どうしたんだよ」
「なになに?なにがですか?」
「いや、その口。恐ろしく赤いんだが、生肉でも食った?」

清蘭は大きな瞳を瞬かせると、その真っ赤な唇をぐっとへの字に歪ませた。

「どう見たってグロスだろうが馬鹿やろう」
「グロス?口紅みたいなもんか」
「ふん!まあいいでしょう。メイクが変わったのに気が付いたということで及第点です!」
「……毎朝大変だな」

それが叶衣の正直なところだった。
このところ清蘭は毎日の様に今日のメイクはどこが変わったでしょう、と問うてくる。

「へへへ。まあ、恋する乙女は一日たりとも気が抜けないのですよ。きゃっ!」
「……お前乙女ってガラでもねえだろ」
「え、それ叶衣が言っちゃう感じですか?この清蘭ちゃんが乙女たる理由の叶衣が?この清蘭ちゃんが恋してるまさしくその相手の叶衣君その人が⁉︎」
「悪かったな」
「そりゃ、悪いとも。ああそれとも、前と気が変わったとか?いよいよ清蘭ちゃんの魅力に気が付きましたか。ならば12回目の告白タイムいきますか?いや、史上初となるそっちからでもいいんだけど」
「ぬかせ」
「釣れなさすぎるー、あれだ、逃がした魚は大きいですね」

叶衣の口からいよいよため息がこぼれ落ちた。

「そういうことは逃がしてから言ってくれ」
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