nero
世界を白く塗りつぶす
放課後が好きだった。
誰もいない教室や廊下が好きだった。
冷たいコンクリートに響く足音が好きだった。
カーテンの隙間から覗く夕日が好きだった。
そうやって絵筆を握る自分が好きだった。
もう、あの大好きだった放課後は戻らない。
昨日の事があったから私は気まずくて放課後のチャイムと同時に教室を飛び出した。
そして無意識に辿り着いたのは、
美術準備室。
上がる呼吸を落ち着かせて周りに誰もいないのを確認してドアを開けた。
「開いてる…」
カギはかかっていなかった。
ゆっくりと入る。
準備室には優秀な生徒の作品や、美術部の作品で溢れていた。
私は、それらを器用に避けながら奥へと進む。
「あった…」
そこには白い布で覆われた一枚のキャンバスがあった。
先生とっておいてくれたんだ。
嬉しくて、そっと白い布を取る。
描きかけの絵。
もう一度、描けるだろうか?
私は絵筆を握った。
そうして
“世界を白く塗りつぶす”