nero
それは自己満足という名の
カタン。
絵筆が床に転がった。
「あぁあぁあぁぁっ……」
頭を抱えて床にしゃがみ込む。
こんな筈じゃなかったのに。
いつから?
いつからこんな臆病になったの?
どうしてこんなに胸が痛いの?
「…ど…う…して?」
何も描けないの?
「描かないの?」
冷たいアルトの声が美術室に響く。
顔をあげれば、手を組んで無表情な如月くんがドアに背を預けて立っていた。
「如月くん」
慌てて笑顔を浮かべても彼には通じないのか益々、怪訝そうな顔をされるだけだった。
それから彼は、ゆっくり私の前まで来て私を見下ろした。
初めてまともに顔を見たかもしれない。
やっぱり綺麗だな。
「描かないの?」
彼はもう一度繰り返した。
「描けないの」
私がそう言うと彼は、ふーんだとか何とかつまらなそうに言っていた。
「じゃあさっさと出てってくれる?」
「あ、ごめんなさいっ」
そういえば如月くんは美術部だった。
少しだけ、否、もの凄く彼が何を描くのかが気になったので勇気を出して少しだけ見ていても良いかと尋ねたけど、勿論、駄目だと言われ、すごすごと教室を出た。
「あ、如月くん」
ふと教室の前で立ち止まる。
「何?」
「完成したら見せてねっ」
“それは自己満足という名の”