nero
才能少女と天才少年
言ってしまえば簡単だ。
言ってしまえば楽だった。全ての事を言って、彼に上靴でも投げ付けてやって敵意をむき出しにしてやれば楽だったのかもしれない。
だけど私にはできなかった。
―…何故?
何故?そんなの聞かないでよ。
認めたくなどなかった。つまり臆病だっただけ。だけどそれさえも赦せないくらい私のプライドが高かっただけ。それだけ。
あんなに絵を描くのが大好きだったのに。
あの頃は周りの人に褒めてもらえて、人に絵を見てもらえるのが嬉しかったのに。
なのに、
私なんかとは比べ物にならないくらいなキミが現われた瞬間、
絵を描くのが恐くて恐くて恐くて恐くてたまらなかった。
不安に押しつぶされそうで身体中が震えて、
人に絵を見せるのが恐くてたまらなくなってしまった。
絵が恐くなってしまった。
「ふふっ、私って嫌な奴でしょ?」
私はこんなにも泣きたいのに、それさえも私は赦さない。
私は彼からの視線から逃げ出すように教室を飛び出した。
才能少女と天才少年
(どちらが哀しいのだろう)