僕の幸せは、星をめぐるように。
「ごめんね、騒がしくて」
部室の扉をゆっくりと閉めながら、阿部くんはそう言った。
「いやいやいや、こっちこそミーティングの邪魔しちゃってたね、ごめん」
「全然。いつもあんな感じだし」
「そっか……」
「…………」
もうすぐ新人戦のシーズンということもあり、近くの格技場や第2体育館からたくさんの声や音が聞こえてくる。
すっきりとした風が流れる秋晴れの空。
ひつじ雲の白がふわふわと水色の中に浮かんでいた。
ちらっと阿部くんを見ると、髪の毛をいじりながら視線を右上に移していた。
困っているような、戸惑っているような。
阿部くんにしては珍しい表情。
そういえば、今年の春にこの部室に遊びに行った時は、
『お、阿部ちゃん女連れ?』という先輩からの問いに対して、
『まあ、そんな感じです』と阿部くんは普通に答えていた。
明らかに、あの時とは反応が違う。
阿部くんにとっても、わたしとの距離は変化したのだろうかと、
どこかで期待してしまう自分がいた。
少しボタンが開けられた白シャツから綺麗に伸びる彼の首筋にもドキッとした。
しかし、
ぶひゃひゃっひゃっ! というさっきのイケメンさんの笑い声と、
「銀杏の歌ものっぽいやつか、あとテナーとかもいいんでね?」
「アジカンはどうっすか。あの映画の主題歌のやつ……」
などと、目の前の扉から軽音部員たちの声が漏れてきたため、わたしは我にかえった。
そろそろ阿部くんも部室に戻った方が良いはず。