僕の幸せは、星をめぐるように。
10月/October 恋と味②
「トシミちゃん、おねげーしますだぁ~」
「え? や、わたしは……。他にいないんっすか?」
目の前には、2年生の上履きを履いた女子が2名。
夏の間、たっぷり日に焼けたんだろう。
少しパサついたショートヘアとボブ。
セーラー服のスカートは膝上、そこから伸びる小麦色の脚は足首に向かってしゅっと引き締まっている。
おお、健康的だなぁ。
「うちの陸上部って長距離とか駅伝が強いべ? 今そっちさ予算どんどんいっちゃって~このままじゃ競走部として独立されるかもしんねーの」
「人数もあっちの方が多いじゃん。新人勧誘しねぇとうちらピンチなんだって!」
確かに、うちの陸上部は駅伝以外は強くないイメージだ。
陸上用のグラウンドよりも、長距離選手や他の部がランニングで走る学校まわりの道の方が綺麗に整備されている。
「ね、トシミちゃん。考えてみてくんね~? もちろんマネでもいーがらさー」
「来年4月までにさ何とかしなきゃなんねくて。まんず見学だけでも、さ!」
卓球のダブルスのごとく交互にアタックしてくる2人の勢いに押され、思わず後ずさりをするわたし。
「あの、わたし、陸上もう辞め……」
「ま、急ぎでもねぇし、ゆっくり考えてけれ~。じゃっ!」
そうビシッと言い捨てて、その2人組はくるっと回り、廊下奥の階段へと進んでいった。
残されたわたしは、口をぽかーんと開けたまま立ち尽くしていた。
廊下中に広がっている騒がしい声が、どこか遠くで鳴っているもののように聞こえる。
確かに放課後はいつもにも増してヒマだ。
男テニのクニオはもちろん忙しく、
合唱部のユカチンも秋のコンクールに向けて練習時間が増えているらしい。
阿部くんも学祭が近いため、日々部活に顔を出している。
……マネージャーだったらやってもいいかもしれない。
いやいや、もう辞めたんだ。
今度はちゃんと断ろう。