僕の幸せは、星をめぐるように。
鏡に映っているそんな阿部くんは、なぜか口元に手を当てて笑っていた。
「どしたの?」
わたしもボンボン付きのニット帽を試着しようとしたけど、その笑いが気になってしまった。
「いや、トシミちゃんが方言出してくれたから」
「はい?」
「だっておれの前だとあんまり使わないじゃん」
う……無意識だったけど。確かに。
そういえば、大宮で1人暮らししている大学生のイトコが言っていた。
都会だとみんな標準語だから、自然に方言が消えていくって。
田舎に帰ると一瞬で戻るらしいけど。
阿部くんはノーマルな言葉で話しているから、わたしもそれにつられていたのかもしれない。
「そうですね。なぜかあてくし阿部くんの前では標準語でございますが、何か?」
「あはは、なにその棒読み。自然に話せば、いいべ? 的な?」
「阿部くんこそ、それ微妙にイントネーション違ーう!」
2人で爆笑していると、店員さんにチラッと見られ、色違いもありますよ~と他の帽子も勧められた。
結局どれを買うか決めきれなかったため、わたしたちは他のお店に向かった。
――賢治さんが何を言いたかったのか、オツムの弱いわたしには、良く分からない。
でも、自分なりに考えてみると、
まだ世界がぜんたい幸福になってねーから、お前ら個人は幸せじゃねーよ、ってことではなくて。
世界がぜんたい幸福、であることがひとつの理想の世界。
その世界は、個人――わたしたちの集合体でできている。
要は、わたしたちがそれぞれみんなの幸せを願うことで世界はその理想に近づいていく、ってことじゃないかな?
みんなの幸せのために……、か。
阿部くんは、どうやったら幸せになれるんだろう。