僕の幸せは、星をめぐるように。
「おれはそう呼ぶね。ってどしたの?」
「えーと、その、慣れなくて……」
と、わたしが目を伏せて小声になると、
阿部くんはその視線を逃さないかのように、顔を近づけてきた。
「トシミ」
薄めの唇から、再びそう発される。
さっきよりもゆっくりと。
わたしは恐る恐る、彼の顔を見上げた。
「なんでしょうか……」
「や、何かね、いいなって思って」
そう言って、彼はやわらかく笑い、涙袋とえくぼを見せてくれた。
か、可愛い……。
「…………」
そのまま、わたしたちの唇はゆっくりと重なった。
触れたのは一瞬だけなのに、その温もりはじわじわと体中を巡っていく。
自分が自分じゃない何かに塗り替えられていくみたい。
彼との世界から抜け出せなくなるんじゃないかと怖くなるほどに。
いやいや、わたしたちはまだ始まったばかりだ。
もっと溺れてしまっても、いいんだよね。
「……いいもんですねぇ」
行ったり来たりなわたしの思考をさえぎるように、
彼はぼそりとつぶやいた。
わたしも「ええ、そうですねぇ」と同じ口調で伝えてみた。
……なんだこれは!
付き合いたてなのに縁側で緑茶入りの湯のみを手にした熟年カップルか。
わたしがぷぷぷと笑いそうになっていたら。
「もう一回したいですねぇ」
「……え? そ、そうです、ねぇ? え!?」
ふいに阿部くんがおかわりを要求してきたため、一気にわたしはドッキドキ初恋モードに戻る。
阿部くんもわたしの反応の変化に気がついたらしく、
「次はトシミからしてほしいなー」と無理難題をつきつけてきた。