僕の幸せは、星をめぐるように。
わたしは歩く軌道を上手く確保できず、空き机を右へ左へずらしながら、
その声の方向――教室後方の男女のかたまりに近づいた。
「トシミちゃん……」
夏よりも髪が脱色されている女子が、同情の目でわたしを見つめた。
「もうラインでも回ってるし、知ってる人の方が多いんでね?」
と無造作に髪を盛った男子が、ちらりと女子たちを見まわしてから、わたしに言った。
「何だ何だ~?」と他のクラスメイトたちもわたしたちに注目している。
すると、
「ね、トシミちゃんは知ってた? 阿部ちゃんって中学の時、学校の先生とやっちゃって問題になったから、この町さ来たっていうの。
しかもその先生学校辞めさせられたって……」
と、微妙に空気が読めなさそうな別の女子がつぶやいた。
わたしを心配するように。
クラスの中がいっせいにざわつく。
あれってホントだったんだ、とか、阿部ちゃん意外とやるな~、という声も静かに流れてきた。
何これ……。
何でみんな知ってるの?
聞くと、友達の誰だかの誰かの知り合いが、阿部くんの昔の知り合いだか何だかで、そんな噂が流れているらしい。
怒りなんだか悲しみなんだかよく分からないもやもやが、喉もとまで押し寄せていた。
きっと中学の頃、阿部くんはこういう一人歩きした噂話によってたくさん苦しめられたのだろう。
真実なんかどうでもよくて、
『へーすごいね』とか『まじで!?』とみんなを驚かせて優越感に浸るためだけの。
その連鎖の犠牲になってしまったのだ。
わたしは唇を閉じたまま、セーラー服の右の長袖に左の指を入れた。
阿部くんからもらったおそろいのブレスレットの感触がした。