僕の幸せは、星をめぐるように。
「平木もばかだべ? いんや、うちらもバカだったぁ……っく。何で誰も止めなかったんだろう……ひっく」
「もういいよ。わたし今楽しいし」
わたしは雪の盛り上がった部分を足で蹴りながら、そうつぶやいた。
しばらく柳下さんは泣きやまなかった。
「トシミちゃんを否定することが、平木のプライドだったから」
柳下さんの話を聞いて、
わたしは正直、分からなくなった。
何が正解で、何が間違いで、誰が強くて、誰が弱いのか。
そして、誰がかしこくて、誰がばかなのか。
「阿部く……いや、せーちゃん? 今どこ?」
『ん? 今バス降りて歩いてるとこ。楽器屋のスタジオ行ってて。トシミは?』
「わたしも今ちょうど帰り。ちょっと話してもいい?」
『うん。どしたの?』
スマホ越しに淡々としたトーンの優しい声が聞こえてくる。
それだけで心が落ち着いた。
わたしはさっき柳下さんから聞いたことを阿部くんに話した。
『……そっか。そうなんだね』
「事実を知って、ムカつく、とか、悲しい、とかじゃなくて。何かよく分からなくなっちゃった」
『何が?』
「みんなにはそれぞれのみんなの思いがあって。平木には平木の思いがあって」
『トシミにもトシミの思いがあるじゃん』
「うん、そうなんだけど」
スマホを片手に、時々景色を見ながら雪の中を歩く。
真っ白な田んぼや畑の地帯を抜けると、道路脇には人工の雑木林が広がっていく。
ぼさり、と雪が葉っぱから下へ落ちる音が聞こえた。
「突然だけど、せーちゃんは中学の時にその……先生との噂を流した人のこと、恨んでる?」
『…………』
ぎゅっ、ぎゅっ、と靴底で雪をつぶす音と一緒に歩く。
雪のため、国道は普段よりもゆっくりとしたスピードで車が行き交っていた。
横断歩道を渡り、少し歩くとわたしの家がある住宅街へ。
阿部くんはしばらく沈黙していたけど、ゆっくりと、
『恨んではないよ。もうあのことは自分の過去として受け入れてるから』
と普段通りの淡々とした声で言った。
それを聞いて、わたしは少しほっとしていた。
わたしも、中学の頃の陸上部での出来事は、すでに過去にあったこと、として受け入れていて、
その上で、今は新たな日々を歩き出せている気がするからだ。