僕の幸せは、星をめぐるように。
3月/March ほんとうのしあわせ
キュッ、キュッ、とズックが床にこすれる音があちこちで鳴っている。
市営体育館は天井からのネットによって2分割されていて、ステージ側はわたしたちが使用中。
後ろ半分は別の高校の陸上部が使っている。
「おえっ、今日中央高校と一緒だぁ」
「え? 中央って何かあんの?」
「雰囲気めちゃくちゃ悪いの。マジおっかねぇ(怖い)って~!」
中央高校――平木のいるとこだ。
わたしはダッシュの順番待ちをしている間、そのネットの奥の様子を眺めた。
1年生らしき部員が、体育館の床にミニハードルを等間隔で並べている。
その中に、平木の姿が見えた。
「おらっ、おめぇボケっとしてんな!」
「1年、遅ぇんだよ。んなちんたらやったら日ぃ暮れるべ!?」
先輩たちが、せっせと働くその1年生たちをイビっている様子も目に入った。
噂通り、雰囲気悪いなぁ。
早くやってほしいなら、手伝ってあげればいいのに。
その時、平木が立ち上がる時に足を滑らせ、床に置かれたカゴを倒した。
中に入っているバインダーやストップウォッチが音を立てて散らばっていく。
「平木! おんめぇ何やってんだぁ。どんくせぇな」
腕組みをしている女の先輩らしき人が、大声でそう怒鳴った。
すみません、と泣きそうな顔で謝る平木を見て、わたしの首筋にじわりと汗がにじんだけど、
「トシミちゃーん、集合だよ!」
と、明るく呼びかけられた声によって、はっと我にかえった。