僕の幸せは、星をめぐるように。


阿部くんと正式に別れたのは、高2になってから。


遠距離になってからは、部活が忙しくなりほとんど連絡しなかったし、

阿部くんも新しい生活を始めたからか、彼からの電話やメールの頻度も次第に減った。


離ればなれになる前に、2人で色々とモメたのもあったけど、


もうひとつ、わたしは気がついたのだ。

先生は一般的な元カノのたぐいとは全く違うことに。


宮沢賢治、バンドやロック、過呼吸への対処や図書室でのサボり、

わたしのことをほっとけない、って言ってくれたこと。


そして――


『トシミ、おれ幸せになってもいいのかな』


幸せになることに罪悪感を持つ気持ち。


彼を構成する多くのことが、その先生の影響によるものなのだ。


わたしは本当に『断腸』の由来の通り、子どもの猿をお母さんのもとから引き離してしまった張本人、とさえ思ってしまっていた。


もちろん、彼と連絡を取ることから逃げていた自分も最低だと思っていた。


5月半ばくらいに彼から着信があり、わたしは意を決してそれを取った。


お互いの近況を表面的に話した後、彼はわたしに聞いた。


『トシミはおれと続ける気、ある?』と。


ああ、とうとう終わりが来てしまう、と思った。


わたしは『無いわけじゃないけど。このままだとせーちゃんのためにならないと思う』と返した。


彼は、そっか、とつぶやいた。


それから沈黙が続いた後、


『ごめんね。はっきり言っていいよ……』とスマホ越しにかすれた声が聞こえた。


言いたいことはたくさんあったけど、下手すると雪崩のように気持ちがあふれそうだったため、止めた。


『阿部くん、今までありがとう。先生と幸せになって』とだけ伝えた。


その夜は涙が止まらなかった。


阿部くんにも新しい生活があって、彼を好きでいる人がいて。


わたしも彼のことが好きだけど、このままずるずると付き合っていても、

彼にとって幸せなことは何もないと思った。



彼の部屋を片付けた時に、こっそり持ち帰ってしまった手紙は、

今でもわたしの部屋の押し入れ奥底にある。




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