僕の幸せは、星をめぐるように。
はぁ、とため息を吐きながら、マンションに戻り、自分の部屋に向かう。
すると、ドアの前に一人、見慣れない女性がいた。
わ、誰だろう。
部屋間違えてるんじゃないかな?
いや、違う。
あの子は――。
その女性は、僕の姿に気がついたようで、
「阿部くーん!」
と大声で言って、大きなトランクをガラガラ引きずりながら、駆け寄ってきた。
驚きのあまり、声が出なかった。
真っ黒のストレートだった髪の毛は、
色はベージュに、頭の上にお団子になってまとめられている。
顔はぐるぐるに巻かれたマフラーに埋もれていて、
服装は、ダボダボのパーカーに細身のスキニーパンツ。
ファッションやスタイルは高校の時とほとんど変わっていない。
「えへ。来ちゃった! ……って。
言ってみたかったから言ってみたけど。うわ、恥ずかしい~」
満面の笑顔を見せてくれたかと思いきや、突然一人で真っ赤になって照れている。
この子は、高校の時、あの町で僕が恋におちた――。
「トシミ……ちゃん?」
「あ、分かった? わたし大人っぽくなったかな~って思ったけど、全然すぐバレちゃった?
阿部くんはもとから大人っぽかったけどすごい大人っぽくなったね!」
彼女は、近所迷惑になりそうなほどの大声ではしゃぎはじめた。
そうだ、あの町は近所付き合いが盛んで、かつ、家と家どおしの距離も遠いため、これが通常モードなのだろう。
「ちょっ、静かにっ。とりあえず、入って!」
僕は急いで、彼女と大きなトランクを部屋の中に押し込み、バタンと扉を閉めた。