僕の幸せは、星をめぐるように。
「へー、畳がフローリングになっただけで、あの時の部屋と変わってないね~。ベースもある! 賢治の本もまだある! あ、このソファーが増えたか!」
彼女は部屋に入るなり、そわそわと中のものを物色しだした。
僕は、高校時代にも同じようなことがあったな、と思い出して、胸が痛んだ。
「もう、そんなじろじろ見られると恥ずかしいから。ここ座って」
あの頃と同じようなことを言って、僕は彼女をソファーに座らせた。
「何か飲む?」と僕が聞くと、
「大丈夫、お土産でりんごジュース持って来たよ」と彼女はトランクを開けながら言って、大瓶を一つ取り出した。
「はい、あと南部せんべいクランキーと、銀河高原ビール。あ、ぬるくなってる~」
楽しそうにそう言って、彼女は僕にお土産を差し出した。
「ありがと、とりあえず冷蔵庫入れとくね」
と言って、僕はキッチンへ向かった。
しばらく、彼女はごそごそと荷物を整理していたようだったけど、
「ごめんね。突然来ちゃって」
と、か細い声を発した。
「ううん。びっくりしたけど。久しぶりだね」
僕は、コップに氷とりんごジュースを入れながら、そう答えた。
「うん。久しぶり」
「トシミちゃんは仕事じゃないの?」
「休み取った。阿部くんこそ大学は?」
「授業終わって今帰ってきたとこ」
「へー。ちゃんと行ってるんだね」
僕はもう彼女――トシミちゃんに会う資格はないと思っていた。
でも、心のどこかには、ずっと彼女が存在していた。
それからお互いの近況を話してから、僕は聞いた。
「どうしてここ来たの?」
「ん? ……ごめんなさい」
彼女は少し気まずそうな顔で謝った後、下を向く。
僕は黙ってその様子をじっと見つめた。
「これを返しに、イーハトーブからやって参りました」
そう言って、彼女はどこかで見たことがある封筒を僕に差し出した。