僕の幸せは、星をめぐるように。
「トシミちゃん、料理とかするようになったんだ?」
「え? 昔っからおかーさんの手伝いはしてるけど」
「あ、そうだったんだ」
「一応、作れますよ? 簡単なものくらい」
もくもくと鍋をこすりながら、軽く頬を膨らますトシミちゃん。
アルミ製の流しに大小様々な泡が混ざった水が広がる。
同時に、彼女がここにいるという実感が、じわじわと僕の心を埋めていく。
鍋を受け取った瞬間、指が触れ合った。
ごめん、と言って、慌てて手をひっこめると、彼女も同じリアクションをしたせいで、流しに鍋がぼとりと落ちた。
「……阿部くん、皿とかはしとか2人分ずつあるね。彼女さんが作ってくれてたりしてたんだ?」
再び泡がついてしまった鍋を水にあてながら、彼女はそう聞いた。
「んー。自分でも作るよ」
「へぇ、自分でも……ってことは作ってもらったりもしたんだ」
「まぁ、どーだろうね」
「…………」
そのまま彼女は無言で鍋を僕に渡し、キュッ、と蛇口を閉めた。
さっき指が触れた時、何でとっさに手を引っ込めてしまったんだろう。
もちろん、あの瞬間、胸がつんと痛んだ。
その手を握りたいという衝動。
もちろんそれだけで突っ走ることはできない。
3年の月日って、あっという間に思えて、実はとても長すぎる。