僕の幸せは、星をめぐるように。


「トシミちゃん、料理とかするようになったんだ?」


「え? 昔っからおかーさんの手伝いはしてるけど」


「あ、そうだったんだ」


「一応、作れますよ? 簡単なものくらい」


もくもくと鍋をこすりながら、軽く頬を膨らますトシミちゃん。


アルミ製の流しに大小様々な泡が混ざった水が広がる。

同時に、彼女がここにいるという実感が、じわじわと僕の心を埋めていく。


鍋を受け取った瞬間、指が触れ合った。


ごめん、と言って、慌てて手をひっこめると、彼女も同じリアクションをしたせいで、流しに鍋がぼとりと落ちた。


「……阿部くん、皿とかはしとか2人分ずつあるね。彼女さんが作ってくれてたりしてたんだ?」


再び泡がついてしまった鍋を水にあてながら、彼女はそう聞いた。


「んー。自分でも作るよ」


「へぇ、自分でも……ってことは作ってもらったりもしたんだ」


「まぁ、どーだろうね」


「…………」


そのまま彼女は無言で鍋を僕に渡し、キュッ、と蛇口を閉めた。


さっき指が触れた時、何でとっさに手を引っ込めてしまったんだろう。

もちろん、あの瞬間、胸がつんと痛んだ。


その手を握りたいという衝動。

もちろんそれだけで突っ走ることはできない。


3年の月日って、あっという間に思えて、実はとても長すぎる。


< 293 / 317 >

この作品をシェア

pagetop