僕の幸せは、星をめぐるように。
「ありがとね。あ、トシミちゃんがお土産で買ってきてくれたビール、一緒に飲まない?」
僕も鍋を拭き終え、流し台横の冷蔵庫へ向かおうとすると、
「うん。あ、いいよ、わたしが準備するし」
と言って、彼女は急に僕の方へ顔を向けた。
ふいに肩がぶつかりそうになり、至近距離で目が合う。
再びどくんと心臓音が体に響く。
彼女のほんの少しカールされたまつ毛とか、綺麗な二重まぶたとか、肉づきの良い頬や唇とか、
僕と同じシャンプーの香りとか。
さっき、鍋を渡した時の彼女の表情は、少し曇っていた。
ちょっと嫉妬してくれてたのかな、なんて。
まさかそんなわけないけれど。
まわりのこととか、昔のこととか、一切考えないでいられたら、
僕は今でも彼女が好きなのかもしれない。
「じゃ、せーちゃんはグラス準備してくれる?」
そう言って、彼女はぷいっと顔をそむけ、冷蔵庫からビールを取り出した。
その頬は、少し赤く染まっていたように見えた。
彼女は無意識なんだろうけど、久しぶりに懐かしい呼び方をしてくれたため、僕は嬉しい気持ちになった。
よく見ると、彼女はジップアップのパーカーの下に『壱年弐組参上』Tシャツを着ている。
さっき3年は長い月日だって思ったはずなのに、すぐ手が届きそうで、でもなぜか触れることができない、時間のゆがみのように思えた。