僕の幸せは、星をめぐるように。


「……トシミちゃんは中学のとき、陸上?」


急に阿部くんは奥二重の目をわたしに向けた。


「うん。でも、足ケガして辞めちゃった」


そう言って、わたしが下を向くと、

阿部くんは「ふーん」と言って、転がってきたピンポン球をクニオに投げて渡していた。


「…………」


そのままわたしたちの間には沈黙が走った。

ピンポン球が台の上でバウンドする音が、秒針が刻まれる音のように感じた。


わたしは阿部くんに何か違う話題を振ろうと、いろいろ考えていたけど、


「今更だけど、足、その、もう大丈夫?」

と阿部くんがボソッと言うのが聞こえた。


「うん、全然。もう治ったし」


わたしがそう答えると、ちょうど相手チームの女子がミスしたため、ラリーが止まる。


阿部くんが次に何を口にするのかに対して、わたしは少し緊張していた。


「そっか。じゃ、今度手伝って欲しいことがあるんだけど」


「え、なになに~? 阿部くんの頼みだったら頑張るよ」


「ありがと、また連絡する。んでその用事終わったら、おれとデートしよ」


そう言って、阿部くんは目をやわらかく細め、にっこりと笑った。



何だろう、いつもどおりの淡々とした話し方だし、デートって言葉も特にその、きっと深い意味は無くて、

でもさっきとは違って、ピンポン球の音が聞こえるたびに、心が弾んでいくように感じた。


それからいろいろ話をしながら、あはは、と笑っていたら、

いつのまにか試合が終わっていて、こらー挨拶するよー、とユカチンに呼ばれていた。


ん~もっと阿部くんとお話したかったな。


ちなみにクニオ&ユカチンは、相手ペアの下手な方に攻撃を集中させるという作戦で、見事な勝利をおさめていた。(汚な~!)
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