僕の幸せは、星をめぐるように。
「ごめんね。ちょっと散らかってるけど」
1階奥の縁側に面している阿部くんの部屋。
畳の上にちゃぶ台とパソコン、本棚やベース、テレビなどが置かれていた。
「へ~良い感じの部屋だね! あ、宮沢賢治の本もある。CDもいろいろあるね」
わたしはそわそわと部屋の中を見回す。
その間に、阿部くんが奥の障子を開けた。
一気に外の光が入り込み、部屋の中がぼおっと明るくなる。
窓の外では、お手入れされた松の木の庭と、奥に広がる田んぼに雨が降り注いでいた。
「実はわたし、昔っから読まされてきたけど、よく分からないんだよね、賢治作品って。
あ、『注文の多い料理店』とかは面白いと思ったけど。でもあれもラストえぐいじゃん」
「ま、確かにおれもよく分かんないかも。でもそこが面白いのかもね。いろいろ想像できるっていうか。いろいろ深いっていうか。
って、そんなじろじろ見られたら恥ずかしいって。はい、ここ座って」
そう言って、阿部くんは中央に位置しているちゃぶ台の前に、一枚のクッションを置いた。
部屋の隅に畳まれた布団の上に、漫画やファッション雑誌もあるのを見て、
阿部くんも普通の男の子なんだなと思った。
よく考えたら、クニオ以外の男の子の部屋に入るのって、小学生ぶりくらい?
改めてそう思うと、少し緊張してきたけど、
「にゃーお」
と、開けられた障子の奥、縁側から、さっきの黒猫――クロがわたしたちを覗いていたため、ふわっと気持ちが軽くなった。