僕の幸せは、星をめぐるように。
9月/September 恋と味①
小麦粉と水をボールの中ではしで混ぜ、熱したフライパンに流し込む。
見た目は色も味もないクレープのよう。
刻みネギや紅ショウガが冷蔵庫にあればのせることもあるけど。
そして、軽く焦げ目がついたらお皿に移し、焼き海苔をのせてしょうゆをかけて完成。
夕飯後、母がせんべいをボリボリ食いながらテレビを見てゲラゲラと笑っているとき、
時々父は自分のお酒のつまみに一人でこれを作っている。
初めてそれを見たとき、
生地をフライパンに流し込んでいる父に向かって、
そんなん小麦粉直で食べてるようなもんじゃん、とわたしは言った。
すると、父は、
「小麦やお米っこがねぇと人間生きてけねぇべ?」と言いながら、
わたしの分まで追加で作ってくれた。
食べてみると、意外とおいしかった。
もちもちした食感と海苔としょうゆの味がうまく混ざり合って、
口の中に入れると、ふわりと懐かしいような、香ばしい風味が広がっていった。
別にお腹を満たすためだったら、小麦粉だけでも良いのかもしれない。
でも、調味料を加えたり、何かを組み合わせたりするだけで、味を得てそれは格段においしくなる。
食べ物って不思議だなぁと思った。