君と願ったたった一つのもの
予感



家に着く。






「ただいまー」






玄関の靴を見る限り、家にはお母さんがいるみたいだった。






「お母さーん⁇」






すると、私の声に気づいたのか、お母さんはリビングからエプロン姿でやって来た。






「あっ、お母さん」





「お帰り、美来。その方は⁇」






あ、そうだった。






「こちらは佐野舜先輩だよっ」





「初めまして」






佐野先輩がお母さんに挨拶する。






するとその瞬間、なぜかお母さんの顔色が悪くなったのが分かった。






「お母さん⁇どうかした⁇」






…お母さんはなにも言わずに佐野先輩を見つめていた。






どうしたんだろ。






「あの…」






って、佐野先輩が言った時だった。






「あっ、うんうん。ただなんか知り合いに似てただけ。気のせいね」






お母さんは、ゆっくりしていってね、と佐野先輩に言って自分の部屋に戻って行った。






「佐野先輩、上がってください。タオル持って来ますねー」







私はそれだけ言って佐野先輩に自分の部屋を案内し、洗面台へ行った。







「お待たせしましたー」






タオルを持って部屋に入る。






佐野先輩はずっと黙ったまま、ある一つの場所をじっと眺めていた。






「佐野先輩⁇」






パッと佐野先輩が気づく。






「あっ、ごめんね」






と、申し訳なさそうに言った。






「いえ。どうかしました⁇」





「うんうん。なんでもないよ、それよりタオルありがとうね」






「あっ、はいっ」






その時はなにも気にしてなかった。






佐野先輩が、どんな気持ちでなに眺めていたのかなんて…






知る由も無かった。




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