そこにいる

体育教官の荒江が、『高杉』を探している間の屋上は、

全員で『だるまさんころんだ』をしているように、皆固まっていた。



「おい、高杉!居ないのか!!」



竹刀を振り上げて、大声で叫ぶ荒江。

僕としては、たかだか髪型くらいでそんなに追い回さなくても・・・

と、正直思っている。


僕と菜都は身体をピッタリとくっつけ、僕たちの後ろに隠れるシンを、それとなくかくまった。

誰だって、あの勢いの荒江にだけは捕まりたくない。


しかし、僕らの努力も空しく、身長の高い荒江からは、シンの茶髪はしっかりと視覚に入ったらしい。


荒江は僕たちに向かって、キッと睨みを利かせると、
ガニ股、早足で屋上の出入り口付近から、一番奥のこちらに向かって歩きだした。



「こらあぁぁぁぁ!!!高杉ぃ!なに隠れとるんじゃぁぁ!!
『今日は行けません』だとぉ!!
こんなメモをオレの机に残しただけで、許されるとでも思ったか!!
出て来い、コラァ!!」



荒江は怒り狂った猛獣のようだった。

僕の知らないところで、シンは荒江をこれほどまでに怒らせる経緯が、
二人の間で何かあったのだろうかと、思わせるほどだった。


荒江は、勢いよくこちらに向かって歩いていた。

右手で竹刀を振り回しながら。


屋上の中ほどまで荒江がたどり着いた時、丁度、荒江の携帯のバイブが鳴った。



---ブーーーッッ、ブーーーッッ、ブーーーッッ・・・



荒江は立ち止まり、黒いジャージの左ポケットに納めていた携帯を取り出して、発信主を確認すると、すぐに電話に出た。




「もしもし・・・」



屋上に居た他の生徒たちは、荒江が携帯に出たコトで気がゆるみ、本来の動きに戻った。

皆、それぞれに弁当を食べ出したり、おしゃべりを再開した。


変わらずに固まっているのは、僕と菜都とシンの3人だけだった。



僕たちは、荒江の動き一つ一つに緊張した。


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