そこにいる
僕のあまり怖くない怒鳴り声に、電話の主は応えてきた。


「はい、なにかご質問でも?」


男は淡々と語った。


正直・・僕は返事がきた事にとてつもなくビビッてしまったが、とりあえず・・声を絞り出した。


「こ・・こんなゲーム・・・ただの猟奇殺人だ・・・早く・・じ・・自首した方が・・身のためですよ・・・」


僕の額からは、汗がダラダラと流れてきた。

いつ、脳がグチャグチャになる周波数を流されるか分からない中で、イチかバチかの賭けのつもりだった。

とにかく、この追いかけっこから、早く抜け出したかった。

ルールにも、ゲームに対するクレームを言ってはいけないとは書いていなかった。

だから、きっと・・・大丈夫・・・。


「身のため・・・ですか・・。

あなたのおっしゃている意味が、私には今ひとつ理解出来ないのですが・・・」


「こんなに人を殺しておいて・・・理解出来ないワケないでしょ!」


「殺す?いつ私が殺しました?なにか証拠でも?」


「お・・・大人はみんなそうだ・・証拠、証拠って・・・!

証拠さへ見つからなきゃ、どんな悪い事したって平気なワケ?

違うでしょ。

今の大人が、そういう社会を作ったんだ。

アンタも・・・あのサイト・・・世の中を平和に・・・って誘っておいて・・・逆に世の中を地獄にしてるんじゃないか!」


「あぁ・・あなたはカン違いをなさっているのですね。

判りました。

このゲームは、本当に世の中を『善人』だけの世界にするための、第一歩なのですよ。」


「第一歩?」


「ゲームで『負け』となった方には、残念ながらその方の大切なモノをこちらでお預かりする事になっているのですよ。」



「・・・大切なモノ・・?」



僕は、大切なモノを必死に考えた。

高校入学と同時に買ってもらったマウンテンバイク。

お小遣いを貯めまくって、やっと手に入れた腕時計。

次から次に大切なモノが頭をよぎった。





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