そこにいる
「まあ・・・はい・・・」


「ふーん・・彼女・・気を付けた方がいいよ。」


「えっ・・ど・・どうしてですか・・・?」


僕は先輩の意外な言葉に、かなり動揺した。



「彼女は読者部の時、推理モノや、ハードボイルド、哲学書をとても熱心に読んでいたんだ。

次はどんな本がいいかとか、好きな作家の話しで気が合って、僕は部活ではよく、彼女の面倒を見ていたんだ。」


「・・・そう・・だったんですか・・・」



初めて聞く、菜都の過去バナに、少し興味を抱きながらも、僕の平常心は、かなり乱れきっていた。


「それがある日ね、僕がよく面倒を見ている…っていうのを、『好意を持っている』って風に、カン違いされてね・・・彼女に告白されたんだ。

中3の卒業前だったんだけど・・・」


僕の頭の中は、いまや全てが霧の中に包まれてしまったのではないかと思うほど、真っ白になった。


「はあ・・・・」


「彼女は僕に告白した途端、僕が彼女の事をそこまでの『好き』ではない事にどうやら気付いたんだ。」


確かに・・菜都はたいてい、こちらが何か言う前に、こちらの心理をすでに見抜いて発言する事が多かったように思える・・・


「告白した瞬間『しまったっ』とでも、思ったんですかね」



「そうみたいだね。」



しかし、小坂先輩も、いけしゃあしゃあと、自分が告られた時の話しとか出来るモンだなぁ。

それも、相手は現役でカレシやってる男を前に、よく言うよと思った。


「で・・・菜都はどうしたんですか?」


「この僕にね、挑戦してきたんだよ。」


「挑戦?!」


「そう」


小坂先輩は、クスクスと笑った。


「・・・どういう風にですか?」


「僕が彼女からの、交際の申し込みを断る前に、ある事を言ったんだ。」


「ある事?」

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