そこにいる
「うん。『私が、今先輩が何を考えているか当てたら、私と付き合ってもらえますか?』・・・だって・・」


僕は、ゴクリとツバをのみ込んだ。


「菜都には・・読心術でもあるんですか?」


ハハッッ・・と、小坂先輩なりにちょっとウケたようだ。


「そうじゃなくて、これは『人食いワニのジレンマ』っていう、哲学の基礎だよ!」


「な・・なんですかソレ?人食いワニ?」


小坂先輩は、無知な僕のために『人食いワニ』のジレンマについて説明してくれた。


「ある旅人が、旅の途中で人食いワニに出くわしたんだ。

人食いワニはとても大きくて、旅人は人食いワニの前を通れないでいたんだ。

『ここを通してもらえませんか』旅人がそう言うと、

人食いワニはこう言ったんだ。

『ダメだ、通せない』ってね。」



「はい・・・」



とりあえず僕は相づちを打つ。


「そこで旅人は、こう人食いワニに提案したんだ。

『では、私がアナタの考えている事を当てたら、私を通してもらえますか?』・・とね。

ワニは『いいだろう、ただし当てられなければ絶対にここは通さない』と、答えた。」


いつの時代かのワニは人と会話が出来たわけ?

まぁ・・哲学だから深く考えるのはよそう。

続けて先輩の話を聞いた。



「・・さっき、先輩が菜都に言われた言葉とソックリですね。」


「それはそうさ。

彼女はこれをパクッてそのまま僕にぶつけてきたんだから。」


「それで、旅人はどうなったんですか?」


「もちろん通れたよ。

旅人はワニにこう言ったんだ。

『あなたが今、考えている事。それは、あなたは私を食べようと思っていますね』って。」


「はぁ・・・まんま・・ですね。」


「ワニは、旅人からそれを聞いた瞬間、口を開けたまま、旅人を食べる事が出来ず、パクパクもがきはじめたんだ。

なぜかはキミにも解ると思うけど。」


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