南柯と胡蝶の夢物語
3,不言乃花
3,不言乃花
いつの時代のどの国の人も、人間というのは決まって美しい花を愛し、愛でた。
いつの時代のどの国の人も、人間というのは決まって未知のものを知りたがり、見たことのないものを見ようとし、無いものを欲しがった。
白い薔薇はある。
赤い薔薇もある。
黄色い薔薇もある。
なのに青い薔薇は無い。
美しく気高い薔薇という花には、神秘の青という色はきっととても綺麗なんだろうに、薔薇は青という色を選ばなかった。
地球のどこを探しても見つからない青い薔薇。
だからこそ、人間は青い薔薇に憧れ、想像の世界で愛でたのだ。
錬金術師が、科学者が、それを作り出そうとした。
結果日本の技術が作り出すのだが、それとほぼ同時期にそれは作り出された。
色々な遺伝子操作を試した際に、この世に存在するべきでなかったものが誕生してしまったのだ。
歪な、ひとつの真っ白な薔薇を。
どこの国の誰が作ったかなどというのは、既に問題でなかった。
疑惑にかけられる人間がたくさん居すぎたというのもあるが、そもそも青い薔薇を、この世に元々無いものを欲した全ての人間が同罪だということなのだ。
ひょんなことから生まれてしまった人間に寄生する白い薔薇は『濁花』と呼ばれた。
しかし、濁花の本当の恐ろしさは寄生だけではなかったのだ。
早い話が、それはドラッグだった。
花弁の抽出液を水で薄めて、その湯気を吸うか血管に注射するかをすると幸せな気分に満たされ、世界が薔薇色に見えるという。
強い中毒性があり、一度体内に取り込むとまず手放せなくなる。
濁花はそうやって人の体内に蓄積していき、脳と生殖細胞を侵していく。
脳細胞を破壊していく一方で、その人の生殖細胞に自分の遺伝子を紛れ込まらせるのだ。
濁花に支配された状態で産まれた罪のない赤ん坊には、様々な症状が見られた。
二重人格を形成する子供。
ふとしたことで記憶が曖昧になる子供。
突飛な行動を起こす子供。
いきなり死のうとする子供。
突然全く喋らなくなる子供。
普段生活している限りでは普通と代わりはない。
しかし時々現れるその行動と、身体が大きく損傷した時に起こる現象が社会問題になっていた。