南柯と胡蝶の夢物語


なんとか夕飯にも間に合い、食器洗いの当番の子どもにお皿を預けると自室へと戻った。
濁花の発作が原因で喧嘩になることも考えられるとして、部屋は一人につき一つが与えられていた。
部屋といっても、寝て勉強するだけの部屋なのだが。
健全な子ども達が小学校に行ってる間は、濁花の子どもは施設で授業を受けることになっている。
中学生からは公立の学校に通うのだが、小学生のうちはまだトラブルの心配もあるからなのだろう。
しかし、実際に施設で授業が行われることなどほとんどなかった。
昼間はいつも通りに仕事をし、夕飯の後にその日の課題が出される。
それを解いてから寝て、朝一番でオトナ達に提出する。
これも提出時間に間に合わないとペナルティが課された。
紗良里はペナルティを食らうことは無かったが、やはり授業もないと行き詰まる勉強も多く、しょっちゅう穂月に尋ねていた。
分からなければオトナに尋ねることも出来るのだが、やはり少し怖い。
最初は楽しかった勉強も、それで段々嫌いになってしまっていた。

今日も課題を黙々と解いていた紗良里だったが、一人ということも手伝って、また昼間の空想の世界に行こうとしているところだった。
背後で微かに衣擦れの音がして、反射的に振り向くと青い羽の妖精がいる。
昼間の妖精とは少し違うようだった。
もっと美しい妖精だったのだ。
その妖精は、淡く光る真っ白い肌を持っていて、銀色の目を冷たく光らせていた。
見とれている紗良里に、声をかける。

「おいのち、取り引きしませんか?」

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