南柯と胡蝶の夢物語
彼女、穂月はどこにでもいる少女だ。
飛び抜けてできることもないし、飛び抜けてできないこともない。
運動も勉強も芸術もなにもかも、なんとなくでこなせてしまう。
運動が大好きだとか、特別に天才だとかいう人達の二番目に、どの分野においても彼女がいた。
穂月という人間を五段階評価で成績をつけるなら全てにおいて四くらい、そんな存在である。
全ての物事をすり抜けるように淡々と、どこか事務的にこなしていく。
何に置いても出来るのに、特別に秀でていることはなかった。
故に将来の夢や目標も持てないでいた。
褒められもしないが、貶されもしない。
好かれもしないが、嫌われもしない。
それでいて夢中になるようなこともなかった穂月は流されるままに、なんとなく、なんとなくでずっと生きてきた。
人に好かれそうな道を選んで。或いは先生に褒められそうな道を選んで。
いつからだったろうか、こんなに毎日がとてつもなくつまらなくなってしまったのは。

「いつからだっけ。いや、そんなの……産まれたときからか」

自分の思考に返事をするように吐いた独り言は目の前を通る電車の音でかき消されてしまい、他の誰の耳に届くこともなかった。
イヤホンで閉じ込めた自分の耳にだけ、骨から伝わった自分の声が妙に大きく響く。
或いは元から声など出していなくて、心の内の声であったのかもしれないが。
電車の音と共に、心の声か口に出したかも意識しない言葉がまた、零れた。

「あいつらの、せい……別に今更気にすることでもないんだけどね。だって」

十両編成の電車が通り過ぎた。
と、一瞬の静けさとともに穂月は言葉の続きを口にした。

「どうせ最期はみんな、同じ」

誰がその言葉に返事をするわけでもなく、しかし上空からカラスの鳴き声が返事だとでも言うように一回だけ聞こえるのだった。
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