南柯と胡蝶の夢物語
パトカーと救急車のサイレン。
野次馬の声。
どこからか聞こえてくる烏の鳴き声。
救急隊の掛け声。
電車が遅れたと漏らす人々のため息。

視界はどこにも焦点を合わすことをせずに、身体の筋肉も動かないのに、聴覚だけは妙にはっきり機能していた。
耳に入る声が、音が全て自分を責めているかのようだった。
今すぐ死にたいと、心からそう思いながらも身体は決して自由にならない。
頭では自分の声がいつまでもいつまでもいつまでもやかましく喚いていた。

――濁花の発作はよく知ってたじゃないの。
――なんで手を握って歩かなかったの?
――なんで施設の迎えから抜け出したの?
――紗良里を連れ出すということは、命を預けられたことに等しいというのに!
――慣れて、いたの?
――何に?
――一体何に慣れていたというの?
――私が濁花に犯されているわけでもないのに!

――紗良里。
――私が殺した。
――そう、私が殺したの。
――お母さんが私を一人にしたように!
――お母さんが私を見捨てたように!
――ああ、こんなことなら。
  、、、、、、、、、、、、、、、、
――私が二人の花の生産を止めていれば!
――私が、私が私が私が……!

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