南柯と胡蝶の夢物語
時は現在に戻る。
学校から帰ってきた穂月は、部屋のドアを開けるなりため息を吐いた。
「お出迎えとはご丁寧に」
「おかえり、穂月ちゃん」
「帰れ、変質者」
鞄を降ろしながら睨むような目つきで、当たり前のようにベッドに腰掛ける人物を見る。
「そんなに睨まないで?ほら、憶えてるでしょう、昨日の取り引きの話。約束通り来てみました!」
「一方的に言うのを約束とは言わない。そもそも、命の取り引きって何のことよ」
その穂月の言葉に、妖精はああ、と頷いた。
「私は命を入れたり抜いたり出来るって言ったでしょう?それでね、その能力を使って取り引きをしているんですよ。自殺したい人とかには、他の自殺方法にない程楽に死ぬ方法を提案。つまり私が命を抜くってことなんですけどさあ。で、その命は、不妊とか寿命とかで悩む命が欲しくてたまらない人に提供させていただきますってね」
「それなら、アンタにくれてやる命をなどないってことで。別に自殺したくてしたくてしょうがないっていうわけでも無いし。そもそも命をまるでモノの様に取り引きするだなんて、随分冒涜するような真似をするのね」
「冒涜?」
そこで初めて、その人物は笑みを消した。
そして、冒涜、命の冒涜、と穂月の言葉を反復するように何度か呟いて見せる。
それを不思議に思って、穂月が声を掛けようとした瞬間に、ククク、という笑い声が聞こえてきた。
顔を俯かせながら肩と角を震わせて笑っている。
その拍子に夕日に照らされて赤く光った透明な髪がキラキラ輝いて揺れた。
とても綺麗なその人に、何故か寒気のようなものを感じ始めた時、その人は爆発したように大声で笑い始めた。
しかしその笑い声は爆笑でありながら嘲笑であり、憎しみの感情をありありと募らせていたのだが。
「え、何?冒涜ってなんです?命に対しての冒涜?何言ってるの、わけわかんないなあ本当、楽しいね!お花畑みたいだ、ああ……ったく笑わせますねえ!アンタら人間にだけは言われなくないよ全く!自殺?妊娠中絶?人殺し?ペットポイ捨て?スポーツ猟?ねえ、教えて下さいよ穂月ちゃん。本当に命を冒涜してるの、私なんですか?ねえ、ねえ!私、そんな悪いことしてます?自殺願望者とか誕生を望まれない赤ん坊の命を吸いとって、飢饉で死にそうな子供とか、不慮の事故に巻き込まれた人とか不妊の夫婦とかに命を与えるのってそんなに間違ってます?教えてよ、人間はいつもそうだ!私の片一方しか見てくれない。命を奪ったら悪魔、命を与えたら神様!だから嫌いさ。私は悪魔でも天使でも神でも魔王でもない。私さ!なのに何故それが分からない?何故私を定義したがる?そんなに私に名称が欲しいのか?何故私を私として見てくれない?私、間違っているんですか?ねえ、穂月ちゃん?」
その問いかけに、穂月はなにも答えられなかった。
学校から帰ってきた穂月は、部屋のドアを開けるなりため息を吐いた。
「お出迎えとはご丁寧に」
「おかえり、穂月ちゃん」
「帰れ、変質者」
鞄を降ろしながら睨むような目つきで、当たり前のようにベッドに腰掛ける人物を見る。
「そんなに睨まないで?ほら、憶えてるでしょう、昨日の取り引きの話。約束通り来てみました!」
「一方的に言うのを約束とは言わない。そもそも、命の取り引きって何のことよ」
その穂月の言葉に、妖精はああ、と頷いた。
「私は命を入れたり抜いたり出来るって言ったでしょう?それでね、その能力を使って取り引きをしているんですよ。自殺したい人とかには、他の自殺方法にない程楽に死ぬ方法を提案。つまり私が命を抜くってことなんですけどさあ。で、その命は、不妊とか寿命とかで悩む命が欲しくてたまらない人に提供させていただきますってね」
「それなら、アンタにくれてやる命をなどないってことで。別に自殺したくてしたくてしょうがないっていうわけでも無いし。そもそも命をまるでモノの様に取り引きするだなんて、随分冒涜するような真似をするのね」
「冒涜?」
そこで初めて、その人物は笑みを消した。
そして、冒涜、命の冒涜、と穂月の言葉を反復するように何度か呟いて見せる。
それを不思議に思って、穂月が声を掛けようとした瞬間に、ククク、という笑い声が聞こえてきた。
顔を俯かせながら肩と角を震わせて笑っている。
その拍子に夕日に照らされて赤く光った透明な髪がキラキラ輝いて揺れた。
とても綺麗なその人に、何故か寒気のようなものを感じ始めた時、その人は爆発したように大声で笑い始めた。
しかしその笑い声は爆笑でありながら嘲笑であり、憎しみの感情をありありと募らせていたのだが。
「え、何?冒涜ってなんです?命に対しての冒涜?何言ってるの、わけわかんないなあ本当、楽しいね!お花畑みたいだ、ああ……ったく笑わせますねえ!アンタら人間にだけは言われなくないよ全く!自殺?妊娠中絶?人殺し?ペットポイ捨て?スポーツ猟?ねえ、教えて下さいよ穂月ちゃん。本当に命を冒涜してるの、私なんですか?ねえ、ねえ!私、そんな悪いことしてます?自殺願望者とか誕生を望まれない赤ん坊の命を吸いとって、飢饉で死にそうな子供とか、不慮の事故に巻き込まれた人とか不妊の夫婦とかに命を与えるのってそんなに間違ってます?教えてよ、人間はいつもそうだ!私の片一方しか見てくれない。命を奪ったら悪魔、命を与えたら神様!だから嫌いさ。私は悪魔でも天使でも神でも魔王でもない。私さ!なのに何故それが分からない?何故私を定義したがる?そんなに私に名称が欲しいのか?何故私を私として見てくれない?私、間違っているんですか?ねえ、穂月ちゃん?」
その問いかけに、穂月はなにも答えられなかった。