南柯と胡蝶の夢物語
11,光芒一閃
11,光芒一閃
「……死ぬと、その人の命は寿命として消えてしまいますから、私にどうすることも出来なかったんだ。その前に気がついていれば命だけでも取り出すことが出来たけど」
そうやって悲しげな顔で、穂月と紗良里に向かって語り終えると、穂月に目を向けて呟いた。
「穂月の、お父さんを。……ごめん」
「……それは別に、妖精サンが私に謝ることじゃない」
その穂月の言葉に、妖精は自嘲するようにして言った。
「そうかな。確信はないけど、濁花は多分私の羽根のせいだ。お父さんとお母さんがおかしくなったのも濁花のせいじゃないですか」
カタカタ、と小さな音がした。
妖精が座った椅子が、震えている音だった。
「最初は気がつかなかったんだ。あの人が濁花を作ったってことも、首吊りしようとした女の人がその奥さんだってことも、穂月があの人の子どもだってことも。でも段々気がついた。忘れかけていたけど、あの穂月の家はあの日の家と同じだし、なにより穂月は『月子』だろう?濁花は青い薔薇の研究の副産物だって言うし、作ったその人は投身自殺、もう一人の奥さんは行方不明。……そりゃあ、私でも気がつきます」
項垂れながら、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
その瞳から涙がぽたりと流れた。
「穂月も、紗良里も、……ごめんなさい」
穂月がなにも声をかけられないでいると、紗良里が優しく微笑みながら言った。
「あら。私の顔に咲いているこの花は、妖精さんの花なのね。それは嬉しいことね、やっと濁花が好きになれそうだわ」
軽く頬を染めてみせる紗良里は、本当に嬉しそうだった。
そんな彼女を見て、妖精は力なく微笑みを返す。
「そう言ってくれるのは嬉しいね。なら濁花の人柱なんていう馬鹿な考えは消えたんですか?」
「……あら」
「……え?」
少し困ったような声を挙げた紗良里の横で、穂月は眉をひそめて妖精に聞き返した。
「人柱って……なんのことよ」
「濁花を一掃しましょうキャンペーンですよ」
慌て始める紗良里を横目に、妖精はそう言った。
「それが、紗良里との契約の一つだったんです」