南柯と胡蝶の夢物語
その言葉に、紗良里は悲しげな顔をした。
「……だめよ。この契約に関係のない人なんて、巻き込んじゃだめじゃない」
「関係なくなんてないですよ。それに、その『容器』は極悪人。ね、丁度いいでしょう?」
「誰なのか教えてもらってから、その判断はするわ」
紗良里の言葉に、穂月も頷いた。
「どんな人を巻き込むつもり?大体、もともと濁花は私の両親が作ったんだから、消すのなら私の命の方がいいと思うんだけど」
「やめて!」
穂月のそんな言葉に、紗良里は顔を引きつらせて大きな声を挙げた。
それから、小さな声で続ける。
「そんなの……それだけは、絶対にだめ」
「紗良里が言えることじゃないわよ!なんでまた、そんな勝手に……死のうとだなんて」
「私なんてどうでもいいのよ……!」
妖精なそんな声を荒げ始める二人の間に割って入りながら、それぞれの顔を交互に見やってにっこり笑ってみせた。
「大丈夫だよ。二人とも殺したりなんてしませんから」
「そういう問題じゃ……」
「大丈夫です」
穂月の言葉をなおも遮りながら笑うこの顔は、どこか悲しげな色を帯びていた。
妖精は眉尻を下げて、困ったような顔をする。
「……あなた達は名前も知らない、異国の方なんですよ。自殺したいっていうものですから、『容器』にならないかという提案を持ちかけてみたんです。これが、あっさり承諾を頂きましてね。いやあ、なんとかなるものですね」
あはは、と乾いた声で笑う妖精を穂月と紗良里はじっと見つめていた。
特に紗良里なんかは、睨んでいると言ってもおかしくない程の真剣さでじっとその人の右脚を上にして組まれた脚を見ているだった。