南柯と胡蝶の夢物語
「……どういうこと?」
ぽかんと開いてしまった口から、掠れたように紗良里は言葉を出した。
妖精は息を吐きながら、楽しそうに笑って紗良里を見つめる。
「私がこの身に、全ての濁花をかき集めてしまえばいい。そういうことです」
「じゃあ、なに?……その『容器』っていうのは自分だって言いたいの?」
穂月に対して、妖精は何も言わずにただつ頷いた。
紗良里がそんな妖精にふるふると首を振りながら訴えた。
ぎゅうと妖精の衣服の裾を握っている。
「妖精さんの身体に入った命は保存されるのでしょう?それじゃあ寿命は迎えない、意味がないじゃない」
「いいえ、正確には寿命が訪れるのが通常に比べてものすごく遅くなるんですよ。それこそ十分が十年なんていう勢いでね。まあ、問題なのは濁花の命の性質けな。濁花の命ってのはさ、何故だか知らんがとっても寂しがりやでね。くっつくことのできる人間の命があるとすぐにくっつこうとする。それがたとえ私の身体の中であってもなんだから、参るよねえ」
こんな話だというのに、妖精は笑いながらスラスラと言い続ける。
「だから今までみたいに人間の命を取り引きすることは出来ないんですよ。となると、この地球にいる意味も無くなるわけだ。そうですね、宇宙を飛び回ることになると思いますよ」
「やめて……っ!」
紗良里は妖精の背中に顔を埋めて泣きはじめた。
「行かないで」
その紗良里の頭を撫でながら、妖精は段々笑みを薄くしていった。
それでもまだ、笑う。
「……なんで役割が無くなったからってここを出て行かないといけないのよ。私の家にでも来ればいいじゃない」
「穂月は聞こえないからそんなことを言うんですよ」
「何が……?」
「一億二億はありそうな、命を乞う、人間の悲痛な叫び声ですよ」
どこか影がある笑みを向けて、妖精は穂月にぽつりと言った。
「助けられない私が、BGM代わりに聞いていいものではないんです」