南柯と胡蝶の夢物語

唐突すぎる台詞に、少しだけ沈黙してからぽつりと呟いた。

「……なんのこと?」
「可哀想な女の子と薔薇が綺麗なお話のこと」

ベッドに腰掛けた隣の人物は脚をぱたぱたさせながらそんなことを言う。
なぜだかそれ以上顔を合わせるのが躊躇われてしまい、穂月はその人の上下に動く足先を見つめてため息混じりにまた、呟く。

「あんた、なんで……」
「世間様はいちいちそんなこと気にしないでしょうが、あんたにとっちゃあ大事件ですよね?殺人未遂って響きはかっこいいかもしれないけどさ」
「馬鹿じゃないの。なんで知ってるのかは知らないけど……取り敢えずあんた、色々日本語の使い方がおかしいと思うよ」
「おおっと、これは失礼。日本語の誕生も見てきたはずなので下手ってのは傷付きましたけど、それはまあいい。確かに多くは穂月さんは『助け損ねた人』だなんて思ってますよねえ!うんうん、OK。でもね、そんな客観的意見じゃなくて、主観的――いや穂月さん的に言った方が伝わりやすいかなあって」
「……」
「つまりね、世界人口引く一人は『助け損ねた人』だっていう認識だとしても、あんたにとって自分は『殺し損ねた人』だろうってことなんだけどさあ」
「少し黙ってみない?」

どこまでもからかっているような調子で楽しそうに、たまに笑い声などを混じらせながらその人はどこか表意を突かせない言葉を紡ぎ続ける。
そこまできて、穂月の中で恐怖や驚きよりも苛立ちの感情が強くなり、ようやく跳ねるようにしてベッドから立ち上がり、不法侵入者の姿を正面からまじまじと見た。
彼か彼女かも分からないが綺麗な顔立ちをしたその人はそんな穂月を楽しげに見ている。
視線を受けながらも、穂月は二度目の台詞を呟いた。

「……誰?」
「私さ」

ロボットのように同じ言葉が瞬時に返ってくるので、面倒になって投げやりに質問を変えた。

「なら何なのよ?」
「うん、さっきよりはいい質問ですね。何に見える?」
「化け物」

その人は穂月の答えにそっと首を竦めて見せた。
その拍子に水色の髪が水のように流れる。
否、その髪はまさしく水流であった。
清流のように透明でいて、太陽の光を通して青く輝いている髪が頭皮からさらさらと湧き出し肩を流れ落ち毛先ですうっと消えている。
更に言うならば、白い肌がぼんやりと発光していた。
また、背中から生えた鳥のようなコバルトブルーの羽と頭から生えた羊のような白い渦巻いた角が妙にしっかりとした質感が、淡い色の髪や肌色とアンマッチで印象的である。
声もそうだが、身体つきも顔も中性的で女性か男性かの判断がつかない。
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