南柯と胡蝶の夢物語

穂月が高校を卒業したあと、紗良里と穂月は着々と準備を進めていき、二人で『子どもポスト』を設立した。
二人の目標であり夢でもあったのが、出会ったあの妖精がしていたことの一部でも受け継ぐことだった。
望まれなくしてこの世に誕生してしまった赤ん坊が不幸な目に遭うことのないように、赤ん坊を引き取って育て上げながら養親を探していく。
それで、少しでも神をも作ることは出来ないと言うかけがえのない命が、無駄になくなってしまうのを防ごうと考えたのだ。


悲しくもあるのだが、順調に子どもは二人の元に集まってきた。
広い穂月の家を使い、子ども達を健全に育てていく。
紗良里は幼い時のこともあってか、『子どもをのびのび育てる』ことについては特に力を入れているようだった。
穂月の手元には両親が遺した濁花の利益がまだまだある。
また、穂月がそれを元手に更に増やしていったりもしていた。
それらをうまく利用しながら、二人は一緒に子ども達のお母さんになっているのだ。

「紗良里、またお話を聞かせてよ!」

まだ小さな男の子が元気に紗良里に声をかける。
それを聞いて、他の子ども達も一斉に紗良里の元に集まってきた。

「いいわよ。なんのお話がいいかしら?」
「僕、桃太郎がいい!」
「私は人魚姫がいい」
「そんなの嫌だい。苺のおばさんの話がいいよ」

意見を言い合う子どもたちに、紗良里は微笑んで一つ提案をした。

「なら、妖精さんのお話は?」

その提案に、子どもたちは一斉に顔を輝かせる。

「それがいい!」
「綺麗な妖精さんのお話!」

紗良里は満足げに頷いて、子ども達にお話を聞かせるのだった。

その隣では、穂月が小学生から中学生の子ども達に勉強を教えている。

「ねえ穂月、ここよくわかんないんだけど」
「ん?ああ、それは因数分解ね」
「穂月、ここは何?」
「悲しい気持ちになったら、ゆうちゃんはどうなるのかを考えてみてごらん」
「穂月ー」
「はい、はい」

子どもポストは今日も楽しげな笑い声で包まれていた。

『bule bird』の看板を掲げて。
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