南柯と胡蝶の夢物語
濁花は人間に寄生する植物だった。
それだから、その命を人間から離した濁花の生命力はみるみる弱っていき、あっという間に寿命が終わって死んでしまったという。
「だから、そんなに早くに帰ってこれたのね、もう……泣いて損したわ」
「ひどい人だよ、まったく」
涙を浮かべながらも笑いとばすようにそう言う穂月を、妖精はこちらも笑いながら軽く睨むようにすると一転してまた泣いている紗良里の頭を撫でた。
「こっちはこっちで、泣き虫すぎて困りますね」
「だって……こんなの。もう会えないかと思ってたんだもの……」
えっくえっくとしゃくりながら泣き続ける紗良里をよしよしと宥めながら、妖精は微かに笑った。
「まさか、こんなことをしているとは思いませんでしたけど」
すっかり変わった家の内装をしげしげと観察して、窓から顔を出してこちらを伺う子ども達に笑いかける。
そのうちの幼い男の子一人が新聞紙を丸めた棒を持ってこちらに向かってきた。
「どうしたんですか?」
にこにこと笑う妖精を睨んで、その男の子は叫ぶ。
「紗良里を、泣かせたな!僕が倒してやる!」
「……こりゃ、とんだとばっちりだ」
ため息をつく妖精に、穂月は面白そうに男の子に向かって声をかけた。
「そう、そいつは悪者だよ、けんちゃん。やっちゃえやっちゃえ!」
「ちょ、え、穂月⁉︎」
驚いて立ち上がる妖精の脚にべしべしと新聞紙が叩き込まれる。
「たいさん!悪霊、たいさん!」
「悪霊ってひどい言われようですね、痛い、痛い地味に痛いんですけどこれっ!」
痛がる妖精を面白がって、次々と子ども達が加勢し始める。
『bule bird』には今日もまた、楽しげな笑い声が響くのだった。