たかしと父さん
目が覚めて篠宮さんとおはようメールをして身支度を整え、家の外に出ると景色が変わった。なんというか、見慣れた家の前からの景色のはずなのに、地球の隅々まで見渡せるようなそんな気分だ。

「たかし、傘持っていきなさいね。」

母さん、母さんは空の厚い雲を見てそんなことしか考えられないんだね。あの雲の上には太陽があるんだよ!(注:嘘です、朝なのでそんなに上ではありません)僕は傘を持つと昨日学校に忘れた自転車のために駅へ向かった。電車を待つホームには様々なタイプの女子高生がいた。なんということだろう、こんなに駅前は混雑しているのに篠宮さんよりかわいい女子は一人もいない。

「・・・ムフw」

思わず顔がにやけてくる。これはまずい。気を引き締めなければ。電車に乗り込むと満員電車の中でメールをしている奴がいる。会話してるやつがいる。あいつらが僕に彼女がいるって・・・しかも、超絶美少女の篠宮さらさんが彼女だって知ったらどんな顔をするんだろう。そう考えていると再び「ムフw」がでそうになった。危険だ。そういう非現実的な妄想は辞めよう。彼らだって僕みたいな平凡なやつに途方もなくかわいい彼女がいると知らなければ、現状に満足して生きていけるんだ。しかし、学校の連中はどうだろう?僕の主観だが、僕の学年には篠宮さら級にかわいい女子はあと2人しかいない。しかも、残りの2人はタイプが違う。上級生のことはまだよくわからないが、篠宮さんはうちの学校のいわゆる「清純派」の中ではトップだ。あれ?本当に清純派なのか?

「しまった」

思わず声に出た。自分のベッドで悶々としていた数か月の間に、毎夜毎夜「たとえどんな過去があっても」とか妄想を続けていたのが裏目に出た。しかし、その気持ちは変わっていない。そう、僕は彼女いない歴15年(ほぼ16年)童貞のおとといまでの間に大変な決心を固めていたんだ。GJだ僕!

「えっ?・・・じゃあ新田くんは彼女いたことあったの?」

(なんと!)駅前で僕を待っていてくれた篠宮さんに恐る恐る「彼氏がいたことがあるか」訊いてみた。

「いないよ!・・・あんまり自慢できることじゃないけど!」
「良かった!別にいても良かったんだけど・・・新田くんの初めての彼女なんだって思うと嬉しいじゃん?」

僕は今日中に隕石が落ちてきて地球が滅びてしまうんではないだろうかと思った。

「・・・ありがとう。」
「わたしもありがとう。心配してくれて。」
「へっ?」

雨が降ってきた。

「あ、やばい雨降ってきた、傘持ってない。」
「あ、使ってよ。」

篠宮さんはそのデカイ瞳で僕を見つめる。

「新田くんは入らないの?」

僕は困った。

「その傘、小さいんだ!僕、学校まで走る!近いし!」

走り出した僕の背中に篠宮さんが「新田くんと私も同じだよー!」と叫んでいた。・・・僕が初めての彼氏!
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