たかしと父さん
「いつも、お宅のたかしさんに娘が良くしていただいて。感謝しています。」

急に話が始まったので篠宮父以外全員が動揺した。ちなみに、姉は母の命令で別の部屋にいる。

「いえ、こちらこそ、ろくに躾けても居なければ気も利かない息子で・・・何かご迷惑かけていませんか?」

気が利かないのはお茶菓子出さずにお土産の羊羹を切った母さん、あんただ。

「いつも感謝しているばかりで、入院がちだった娘もすっかり元気になって。たかしさんにはだいぶお気を遣っていただいているみたいで。」
「お父さん・・・」

さらが少し嫌そうな顔をした。身体が弱いことをちょっと気にしている。でも、事実だ。

「あら?大丈夫ですか?」

母が篠宮父の顔を覗き込む。篠宮父はメガネをはずしてハンカチで拭うとまた顔に戻した。なんだろう、この違和感は。

「・・・いえ、普段、作業服を着て仕事しているせいで、スーツは着馴れなくて。あの、実は、今日は一つお話がしたくて。」

ウチの両親は一瞬、僕のことを「やっぱり何かやらかしたんだ」という目で見た。間違いなく見た。さらは「何を言うつもりだろう」といった顔。僕は「やっぱり何かしでかしたかな」と不安になっていた。
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