たかしと父さん
 私の人生の野望は着々と実現していた。高校で彼氏を作り、高校卒業と同時に結婚も果たした。私の人生を1年間に例えるともう11月も終わりに近づいている計算ではないだろうか。父の退場を目の当たりにした直後、私は高志に宣言した。

「高志、私、子供が欲しい!」

高志は絶句していた。

「ずっと、夢だったの!高志の子供が欲しかったの!高志の子供が産みたいの!」

てっきり即座に反対されるかと思いきや、高志の反応は意外だった。

「・・・ちょっと、実家に帰ってくる。」
「・・・じっか・・・一人で?」

高志は「一人で」と答えると、父にもらった車を運転して出て行った。一人になったアパートで何か大切なことを言い忘れていた気がすると考えた。

「『ずっと夢だった』でしょ?『高志の子供が欲しかった』でしょ?『高志の子供が産みたい』でしょ・・・」

なんだか喉のあたりまで出てきている言葉がなかなか出てこない。

「今日、高志・・・夕飯食べてくるのかな?」

式で散々食べたとはいえ、父はタクシーで去り、夫は車で去って行った。新婚旅行に出発するまでもうさほど時間がないというのに

「あ、でもいいか。」

宿泊先が決めてあるだけでパック旅行ではない。ちなみに、飛行機は私が怖いので国内旅行だし、温泉は私があまり得意ではないので、車で3時間ほどの場所だ。別に少しぐらい遅くなっても泊めてくれないということは無いだろう。高志は割とすんなり帰ってきた。玄関の音を聞きつけて向かう。

「高志、私あと・・・」
「子供作ろう。僕の子供産んでくれ。」

そう言った高志は何を考えているかわからない顔をしていた。

「『あと』なに?」
「ううん、もういい。」
「ふうん。」

そして、二人は出発した。私は2泊3日でそんなに必要ないだろうという量の着替えを持って行った。私、幸せになりたい。
< 36 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop