たかしと父さん
風邪をひいて学校を入学2日目にして休んだ。なかなか熱は下がらず入学3日目、あきらめて病院の外来に行くとかなりタチの悪い風邪だということが判明した。

「あー・・・これ、風邪じゃないね。・・・薬だしとくよ。」

でも、出された薬はいつも風邪の時にもらう奴と同じだった。その日も学校を休み、翌日、登校時間をずらして保健室に行く。入学式の時にちらっとだけ挨拶しているのを見た女性の保健室の先生が出迎えてくれた。

「今年入った生徒の、最速病欠記録だったね。いらっしゃい、待ってたよ!」

そういって、思ったよりも老けた声をした保健室の先生に笑われた。保健室には先客がいて、クラスで氷川の次に名前を覚えた篠宮さんだった。

「あ、ぐうぜーん!同じクラスのお二人じゃーん。」

保健の先生が要らないことを言う。僕が努めて平静を保とうとしていたところにそんなことを言われてしまっては・・・また固まった。とりあえず、固まりながらも挨拶をする。

「あ、どうも・・・はじめまして。新田たかしです。」
「・・・新田くん?」

名前をおうむ返しにされて声が思わず上ずった。

「は・・・はぁいぃ?」

篠宮さんが・・・あの篠宮さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。

「『はじめて』じゃ・・・ないよね?」
「・・・あ!・・・そうです・・・そうだね。入学式の日に会ってるね・・・当たり前だよね・・・」

保健室のおばさんがまた要らない口を挿む。

「新田くんは篠宮さんが若くてかわいいから照れてるかなあ?」

僕は心の中で「それは図星だから絶対に言っちゃいけないやつだ、このバカ」と思ったが、当然口には出せない。

「かわいいってひどいです!」

いや君はかわいいよ。犯罪級だよ。しかも、「ひどい」の意味が分からないよ。保健室のババアは下を向いて「ふーん」とか言いながらデスクワークを始めた。お前の名前は今日から俺の心の中で「ババア」だ。

篠宮さんと喋ったのは多分とても短い時間だったけど、ものすごく長く感じた。ババアさえいなければもっと長く感じたかもしれないけど、おそらく、場所が保健室でババアが一緒にいなかったら(というか主に篠宮さんとババアがしゃべったのを横で聞いてただけだが)間が持たなかった。ババアの割と軽妙なトークにたどたどしく答える篠宮さんの爆弾級のかわいさにところどころ意識が飛びそうになりながら聞いた話によると、篠宮さんは体が弱いらしい。普通なら「僕がまもってあげなきゃ」と思うところだが、僕は平凡な高校生なので、体の弱い篠宮さんを守るために急に医者にはなれない。だから「気を使ってあげなきゃ」ぐらいの気持ちになった。でも、篠宮さんの声がきけたり、少し挨拶できたり、ちょこっとお近づきになれたり・・・大進歩のような気がした。

でも、大進歩って・・・どこに向かってだ?
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